講評

審査員3名の方から、講評が届きました。

青年団リンク  キュイ・主宰

綾門優季

 

◎Aブロック

 

1.愛知学院大学演劇部”鯱”『ダスイッヒ』

感情が闘う系のものとしてはアカデミー賞を獲ったアニメ映画『インサイド・ヘッド』をはじめとしてどのジャンルにも数々の歴史的な傑作がある以上、相当ひねらないと観客を楽しませるのは難しいです。まして、喜怒哀楽っぽい演技を散々しておいて、この四人は喜怒哀楽ではないなどといきなり言われても、別にどんでん返しにはならないし、じゃあこれまでの時間は何だったのかというイライラが募るだけです。服の色で感情を表すんだったら、たとえば劇中で着替えまくって混乱させてみてはいかがでしょうか?

 

2.南山大学演劇部「HI-SECO」企画『エンドレス水族館』

今回の事実上の準優勝。冷え切った夫婦の愛情を取り戻す物語を、何故か魚や海の例えを使いまくって語り切る独創性には注目しました。俳優の演技も他団体と比較すれば安定していたと思います。シリアスな空気で寿司を食って舞台ではなく劇場の入口のほうから扉を開け放って出ていくラストの奇妙さも良かった。ただ審査員の鹿目さんからも指摘がありましたが、自分も電車のシーンは弱いように感じましたし、冷たい夫というのが冷えた愛情のことではなく、死んでしまって身体が冷たくなった夫のことだったという観客が「!」となる情報の開示のタイミングが早い。観ているほうとしては途中でダレました。様々な意味で整理が行き届いていませんでした。ただ予選と比べて決勝の上演の出来がかなり良く、はねるつみきを推薦しよう、と前日にほぼ決めていたにも関わらず、審査会で若干迷いが生じたことは付記しておきたいです。

 

3.魚眼ベニショウガ『かけがえのないインスタントな私』

タコスのくだりや葬式のナレーションの無駄なリアリティなど、現実の変な部分を抜き出して提示するセンスは充分にあり、これがはじめて書いた脚本ということだったので及第点には達していたと思います。けれども、四人で数役を兼ねるのであれば、戯曲においても演出においても観客が理解しやすいように制御することを、もう少し意識しても良かったかもしれません。悪い意味で混乱しました。

 

4.公募出場枠『シック・ソサエティ』

映像の使い方が範宙遊泳っぽいよ! また、自分は残念ながら拝読できていないのですが、AAF戯曲賞を受賞した『パブリック・イメージ・リミテッド』に戯曲が似ているという指摘も他の審査員からありました。わずか20分の作品でこれだけ似ているものが次々と見つかるのは大問題で、知っていたんだったら元のものからずらす努力をするべきだし、知らないんだったらもっともっと学んでください。募金活動をしているひとが同じフレーズを滑舌の良くない感じで何度も繰り返すところは笑いました。ああいう変なところがたくさんあって欲しかったです。

 

◎Bブロック

 

1.ギカドラ(豊橋技術科学大学)『1/3時間』

キングオブコント2016で準優勝を果たしたジャングルポケット『余命3分』というネタは結構好きなのですが、タイムリミットものでワンシチュエーション20分はさすがに長すぎ。新しい、意外性のある展開を続々と投入してくれないと退屈します。作品紹介に「メチャクチャです。」とありますがすべてのギャグが常識的な範囲に留まり爆発力がないです。「時限爆弾を食べるのが趣味」ぐらい意表を突くひとが登場して欲しかったです。

 

2.愛知県立芸術大学演劇部「劇団ムヂンエキ」『眼をつぶってごらん』

世界観がとても美しく、音楽と映像が心地よく、バカバカしいものが多かった今回の演劇祭のなかで異彩を放っていました。ウォッカをあおるラストシーンの叙情性は大学生離れしていました。しかし、盲目のひとと難聴のひとを会話させる部分については危うさを感じました。感動のために障害者を出しているのでは? と批判されても仕方ないです。全く音が聞こえなくなった日に土砂降りがあり、音のない雨を想像させるシーンは素晴らしかったですが。

 

3.はねるつみき『昨日を0とした場合の明後日』

唯一、審査員から似ている演劇についての指摘が全くなく、新しい感性を目撃したという衝撃を客席に齎した作品。全力で推しました。全国に名古屋代表で進む団体なので、あえて厳しいことを伝えます。わりと長く演劇をやってきたはずの審査員全員が予選と決勝で2回観て、ようやく作品全体の構造を理解できたということが、審査中に明るみに出ました。今のままでは難解に過ぎます。はねるつみきという団体名ですが、常にはねるのではなく、助走段階とここ一番で物凄くはねる段階を使い分け、観客をより深い絶望へ叩き落とすことが出来たなら、全国制覇も全くの絵空事ではないでしょう。応援しています。がんばってください。

 

4.名古屋芸術大学劇団超熟アトミックス『I;dea(アイデア)』

悩める作家ものとしては色々とツッコミどころがありました。実際に作家として曲がりなりにも活動している者の実感としては、アイデアっていうのはこういうものではなくて、複数のアイデアのなかから最適なアイデアを選ぶのに悩むのであって、アイデアをひとつ出すのに時間がかかりすぎ。あと周りの意見に左右されすぎ。強固なビジョンがなさすぎ。作演出の方が主人公として主演しているということもあり、客観的な視線が著しく欠落しているのではないか? という他の審査員からの発言には深く頷きました。ラストシーンもワンパターンの極み。

 

◎Cブロック

 

1.もぐもぐ熱帯魚『ちぇんじ!』

運命のいたずらにより、名古屋中の演劇をやっている若いバカ(京都も混じっています)が集結したのではないかと思われたCブロックで見事勝ち抜き、決勝に駒を進めた作品。「モテたい」という何のひねりもない一言で、喋り方や雰囲気によって笑わせるセンスは良かったんですけど、後半が…。自分には失速したように感じられました。演技というよりは戯曲の技術的な問題によるところが大きいです。新しい展開が前半に極端に集中していて、後半にあまりないのはバランスが悪かったです。いちおうリアリズムを守ってきたのに途中で主人公が二人に分裂する唐突さは面白かったんですが、インパクトのあるシーンを全体のどこに持ってくるかは、慎重に考えましょう。戯曲はシーソーなので、定期的にぎっこんばったんしないと。

 

2.劇団モーメント『グッドラック』

死ぬほど似ていない金八先生のモノマネでニヤニヤ笑いが止まらなかったです。普通なセリフでさえ観客を笑わせていた俳優の杉野さんには、才能を感じました。しかし! 作品紹介からの引用になりますが「少しずつ大人になっていく普通の大学生が少しだけ勇気をだす物語です。」そういうの、今回めっちゃ多かったので埋もれました。印象に残りませんでした。一気に成長してください。別に大学生じゃなくてもいいです。普通のひとを描きたいなら、よっぽど繊細に描かないと20分はもたない。頼むから少しだけ勇気ださないで。自分の友人でもないのに少しだけ勇気だされても「ふーん」で終わりです。

 

3.アルティメットドラゴンナイフ『トリトメガァル』

タイトルに反して今回、最もとりとめのなかった作品。泥酔した酔っぱらいのうわ言のほうがよっぽどとりとめがあります。登場人物が照明を背負ってきて度々後ろを向き、比喩表現ではなく物理的に眩しすぎて直視出来ないシーンが多いことに度肝を抜かれました。映像もストーリーに関連があるのかないのかわからない部分が多く、衣裳の不必要なまでの派手さも意味不明で、滑舌が恐ろしく悪くてセリフの半分以上が聞き取れなかったものの、ヴィレッジヴァンガードに売っているいかにもマズそうなのについつい買ってしまう妙なお菓子(※「いかチョコ抹茶」みたいなやつのこと)のような、情報過多ならではの謎の魅力があり、幻灯劇場さえいなければ審査員推薦枠でここを推していました。

 

4.幻灯劇場『56db』

彗星のように現れた、名古屋学生演劇祭キング・オブ・バカ。56デシベル以上の音が鳴ると月外生命体KAGUYAに襲われるという設定のもと、赤黄青の三色にわかれたマスをルールに乗っ取って進んでいくバカバカしさ。本当に何が起こるかわからない本番であるにも関わらず、キャスト・スタッフ全員すこぶるアドリブ力が高く、観ていて全く飽きませんでした。「ここはこうした方が良かったのに」という発言は審査員の誰からもなく、「これはこれでいい」という結論に達するのに、そんなに時間はかかりませんでした。審査員推薦枠でどの団体を決勝に出場させるのか、もうちょっとモメるかなと予想していましたが、フタを開けてみれば一瞬で勝負は決しました。京都での上演、多くの観客が殺到し、驚きをもって迎えられることを祈っています。

 

◎総評

 

東京学生演劇祭と違って(日芸の先輩や同期や後輩が毎年出るので何度も足を運んでいます)、「アートっぽいことをやろうとして中途半端にカッコつけてスベっている笑える要素がひとつもない団体」が名古屋学生演劇祭にいなかったのは、地域性なのか今年たまたまそうなのかわかりませんが、喜ばしいことです。劇団ムヂンエキが唯一アートっぽさムンムンでしたが、あの徹底的な美学を感じる世界観自体は素晴らしかったので、突き詰めていけばこの先何かあるかもしれません。というわけで、講評会の時には触れられなかった「笑い」について補足させていただきます。「名古屋の演劇やってる学生はバカばっかり」だけだとただのシンプルな悪口なので…。

 

自分が「笑い」に重きをおいた演劇を観ているときに重要視しているひとつの基準があります。「こんなことだったらお笑いライブに行けば良かったなあ」とため息をつかないかどうかです。これだけ膨大な数のお笑い芸人がしのぎを削ってライブもしている世の中で、観客にわざわざ演劇を選んで観に行ってもらうためには、何か目的が必要です。ただ笑わせるだけではダメで、別の価値を創出しなければなりません。特に、短めのギャグを多用して笑わせようとしている団体について、評価が低い理由は、せっかく演劇に与えられている「長めの尺」を、うまく生かすことが出来ていないように感じられたからです。壮大な仕掛けが出来る時間を、どのように使うのか。その点でアルティメットドラゴンナイフ、幻灯劇場には注目しました。それぞれの仕方で、大仕掛けを持ち込んでいました。

 

あと、「この世界のすべての似ているものは敵」だと捉え、ゆめゆめ油断しないでください。たとえば、自分は本谷有希子さんにあこがれて演劇を始めました。先人にあこがれて演劇を始めるのは、人生の新しい1ページとしてことほぐべき瞬間ですが、そこからなるべく遠く離れた作風になれるよう、苦心しなければならない地獄へ、足を踏み入れることになります。今回、地獄に足を踏み入れている自覚の足りない作品が複数見受けられました。「ああ、あの劇団好きなんだねー」って言ってしまいそうになるやつ。観客に「○○に似てる」と指をさされたら、その場で死ぬゲームに出場していると考えてください(幻灯劇場が露骨な『シン・ゴジラ』のパクリをしたことについて責めているわけではありませんよ、あれは確信犯的なパロディです)。その点で、はねるつみきが頭ひとつ抜けていました。ちなみに講評会で、はねるつみきを「RADWIMPSが物凄く暗い歌詞だとこういう感じ」と評しましたが、作・演出の常住さんはRADWIMPSを全然聴いていないそうで、自分の予測が大きく空振りしたことを、この場を借りてご報告させていただきます。ますます謎が深まりました。


空宙空地・代表

おぐりまさこ

 

◎総評

 

皆さん本当にお疲れさまでした。上演を終えてみて、また他団体の作品を見て気づいたことなどもたくさんあったかと思いますので、ここに書くことは蛇足になるかもしれませんが、まずは私の感じたことを率直に書いていこうと思います。

各作品についてのことは別で書いておりますので、ここにはそれ以外のことを。

 

全体的に、物語を創っている団体が多いなと思いました。それが良いとか悪いとかではなく、起承転結を軸に主人公を置いて紬ぐもの、さらには、何かに悩んでそれに背を向けたり打破したり、そしてラストでは一歩前へ進む、という成長物語。

これは、これまでに高校演劇も含め、もういろんな形で出されているものなので、そういった作品を創作するときは独自性を出すのが難しいこともあり、ライバルが異様に多いことになります。勝ち上がるためには、戯曲や演出・演技の精度がかなり影響してきます。なので、その路線で戦うならば、その辺りをぜひ磨いていってほしいです。

 

ではどうやって磨くのか。

いろんな作品を観てください。いろんなジャンルのものをできるだけたくさん。観たあと、トレースしてみるのも有効です。

観にいったときは、楽しんでる隙がないくらい探求の目で観てください。戯曲、演出、舞台美術、俳優、音楽、照明、音のボリューム、間、伏線の張り方、演じ方、ミザンス、メタファー。好い作品はこれらが無駄なく影響しあっていたりします。それを読み取って持ち帰ると、ご自身独自の作品を創る時のヒントになるかと思います。

また、観て「悔しい!」と思ったものは、自分の好きなジャンルかもしれません。

 

さて私は演出、劇作もしますが、主には俳優なのでそれについても少し。

俳優の役割は「作品の先端で、それを観客に届けること」だと思っています。

私の場合、まずは台本から登場人物を立ち上げるとき、その作品・シーンで何を届けるべきなのかを考えます。そうすると「かき回す」「かき回される」「話を進める」「話を転換させる」など、そのシーンでそのキャラクターがするべきことがわかってきます。となると、どんな身体で、どんな性格で、どんな話し方で演じればいいかも見えてきます。同じ「でもさあ、」という台詞も、それで発し方が変わってきたりします。そうすると、役柄の土台が安定するので、自分が話していないシーンでもどうしていいか迷うことが減り、そのシーンに俳優ではなく「登場人物として」堂々と存在できるようになります。多役を演じ、瞬時に別人にならなければいけない時もこれらを押さえておけばブレも減ります。

登場人物を「役」と呼ぶのは理にかなってますね。

 

会話劇を主軸に創っていますので、会話についても。

表現しようとするのではなく、相手の言葉や立ち振る舞いに何を感じ、相手を・状況をどうしたいのかを常に芯において、直前やそれまでの展開の影響から発語や行動をしていくことが大切です。

これは、エンターテイメントでもコンテンポラリーダンスでもある一定は共通して言えることだと思います。

言葉を投げる時はしっかり「相手」に投げる。むやみに客席に投げると、いくら大きな声を出しても何を話しているのか伝わらないし、逆に相手にしっかり影響を投げ、相手が話を聞いていると、小さな声でも何を話しているのか、どう思っているのかがちゃんと客席にも伝わります。

滑舌というのは、口内や発声・発語の技術だけでなく、自分が話していることが自分自身の中から出ているものなのかどうかが、かなり強く影響します。

また言葉そのもので伝わる内容というのは、全体の7%しかないと言われています。つまり人は、日常でも舞台上の登場人物でも、その人が何を考えそうしているのかを、身体の在り方や間、声色などで読み取っているのです。

 

これがしっかりなされていた団体の作品は、やはりお客さまの興味をしっかり掴んでいたように思えます。

 

また、予選・決勝、それぞれギリギリまで模索を続けていた団体と、稽古・研究不足や油断が見えた団体とが、かなりはっきり見えていました。

自分たちの独自性を追求し、最後まで最善を尽くして創り続けた団体は、今回悔しい思いとしたとしても、次は必ず今回よりも素晴らしいものを創り上げられると思います。

今回足りなかったものがあったな、という思いがあるクリエイターの皆さん。次回はぜひ最善を尽くしてみてください。幕が上がる直前までが、創作期間ですよ。

 

今後の皆さまのご活躍、楽しみにしております。

 

空宙空地 おぐりまさこ

 

◎Aブロック

 

①愛知学院大学演劇部 "鯱"『ダスイッヒ』 

ドイツ語で「自我」を意味する「DAS ICHI」をタイトルにしている。主人公の前に突然現れた4つキャラクターとそれを率いる一人の人物が、彼の自我の化身なのかもしれない。もしくは主人公の自我を引き出すことがテーマか。ドイツ語にしたのは、医学的なことと絡みがあるのだろうか。

有名なアニメ映画に似た設定のキャラクター4人がいたが、それと大きく違うのが、本人と対話できることと、4つのキャラクターがそれぞれの方向に引き合うのではなく、揃って主人公を前に進ませようと足並みが揃っていたこと。

このことが物語の進行に膨らみを持たせられていたかというと、残念ながらうまく作用していなかった。4つのキャラクターは色や性格が分かれていたが、彼ら同士は互いに意見が割れることはなく、常に1対4のみの引っ張り合いになっていたため、1対1でなく1対4にしたことが生かされていなかったように感じました。最初にアイデアを思いついたあと、そこからいかに粘れるかが、戯曲執筆には大切に思います。

演技に関して。勢いのあるつくりにしたかったからか、挙動(身振り手振り)をデフォルメした演技手法を用いていたが、違和感を持ってしまう原因として、動かなくても済むはずの身体を動かすための「動機や衝動」が釣り合っていないことがありました。大きく動くには内側の熱や思いを大きくしないとちぐはぐに見えてしまう。これは他の団体でもよく見受けられます。どんな手法を用いても、その効果や理由を俳優・演出家がしっかり理解していないと逆効果になりかねません。作品や自分たちの個性を生かせる演技の色感を、見つけて極めてまた挑んでほしいです。

 

②南山大学演劇部「HI-SECO」企画『エンドレス水族館』 

ウェットな物語を明るく語ることで、哀しみの深さが印象に残る作品でした。言葉の紡ぎ方も魅力的。比喩や伏線の使い方に長けていました。

ただ、仕掛けとなるキーワードが「水族館」と「環状線」の二つになっていて、その二つをもう少し巧みにリンクさせるか、もしくは一つに集約できたらさらに濃密になったかも。

魚たちが出てくるシーンはアニメ的な世界観にしてメリハリを出し、最後まで観客を飽きさせない作り、寿司職人の父親を終盤近くまで悪役に見せておいて、実は娘を未来ある現実に連れ戻したいという愛情や種明かしのキーマンにしていたのも上手かったし、魚と死者の体温の冷たさや、人生と出世魚の呼び名を重ねるなど、センスが光る言葉の仕掛けが印象的。

残念だったのは作品の終わらせ方。主人公の成長物語にせず、まだ「ぐるぐる迷っている中」にいて、踏み出すかどうかを観客に想像させた方が、物語全体の意図が引き締まったかもしれない。

演技に関しては、俳優それぞれ、シーンや作品における自分の役割をしっかり理解していたように思う。観せることを意識した発声・発語がされているため、楽しんで観ることができ、「演劇ファンでなくても楽しめる」という特色を持っていると感じました。

 

③魚眼ベニショウガ 『かけがえのないインスタントな私』

心地よい早めのリズムのモノローグを中心に、主人公の心の変化を描いた作品。

まっすぐ素直に感じたことを話せなくなり周りに迎合して生きる男が、過去の記憶を遡り、また自分を見つめ直す物語。

今年、高校演劇を含め若者たちが創作した作品を何本も観る機会があったが、なぜかこういった悩みを抱えている話が多かった。どうやら他地域では違うようですが、愛知県内では今年、やたら多かった。つまりは現代社会の、この地域において特徴的な青年の心の内に秘める悩みなのかもしれない。

一人の人物を4人に分けてモノローグをシームレスに繋いでいくことがこの作品の特徴で、作演出家曰く、そこに特に意図はないとのことでしたが、そのことと、主人公が心を閉ざした原因が身近な出来事だったことも作用して、見る側としてはより普遍的な誰もが抱え得る悩みを投げかけている、という印象を受けました。

時折彼らは他者にもなり、過去の回想を紡いでいく。そうしていくうちに自分を見つけていく物語だが、こういった作品はラストをどうするかがかなり肝になると思われる。どうしても解決したくなってしまうけれど、20分という上演時間の中でそこまで動かそうとすると、どこか無理が生じて、長い間悩んできた割にはカンタンに解決してしまったな、という印象になってしまうのがもったいない。上演時間をしっかり意識して作品の進め方や表現を考えるのが肝要。

また、先に書いたように、普遍的な悩みや社会問題を提示していたようにも見えたが、作演出家がそれを意図していなかったのだとしたら、そこは私の読み間違いだったかもしれません。

 

④公募出場枠 『シック・ソサエティ』

街を行き交う人々の、心の内をつぶやくモノローグで進行していく作品。通りを歩き過ぎる人、募金活動や街頭インタビューでそこにとどまる人。そして沈黙の中で時折映る、文字とその背景色で構成された映像。

この二つ、知っている人(観劇をよくする人)は大半気づくであろう、ここ数年でたくさんの人の目に触れている作品と、それとは別のとある団体の特色によく似ていた。その魅力に惹かれてオマージュ的に取り入れたかもしくは偶然似ていたか、どちらにしてもこれだけ有名で既視感の強いものを取り入れるとなると、それを自分のものにしてさらに大きく超えないことには逆効果になってしまう。そこで損をしていたかもしれません。

そのことは置いておいて、本作品について。

落ち着いた語り口でモノローグを語っていくため、風景や心情を想像しやすかった。ただ、流れていく風景の中でたくさんの人々の心情が並列に語られていくため、「これは何の話なんだろう」という謎がずっと頭の隅にあり、それを探ることで読み取れなかったことも多かったように思う。話している内容はかなり具体的なため、どうしてもそれを探してしまうということもあったかもしれない。

主題・主張らしき言葉がラストシーン近くで、長い沈黙の中流れる映像(文字)で提示されていた。これまで流れていたような何気ない日常に、気づかないうちに迫っている危機。それに対する警告。それがこの作品の主題で、それをラストで衝撃的に提示するために、流れる日常をここまでわざと並列に見せていたのであれば、俳優たちは好い仕事をしていた。誰が飛び出ることもなく、その場に存在していたように感じました。そういう演出指示が出ていたと思いますし、それをちゃんとこなしていたのは特筆すべきことです。

だからこそ、そのラストシーンまで、観客の興味を引きつけ続ける仕掛けがあると、さらに効果的だったかと思います。

 

◎Bブロック

 

①ギカドラ(豊橋技術科学大学)コント『1/3時間』

タイトルでかなりハードルを上げています。

「コント」というとやはり笑いが主軸。ということは、観客は「笑わせてくれるんだろう?さあ笑わせてくれ!」という姿勢になります。観客が気軽に楽しんで笑えるためには、創り手の緻密な計算と積み上げと、精巧な演技、客席の空気をその場で感じての進め方が重要になります。空気が緩いシーンでも、創りが緩むと観客はあっという間に興味を無くしてしまいます。

題材としては、カウントダウンもので20分持たせるのはなかなか大変です。二転三転させようという意思は見えたが、「爆弾」という障害に向き合っている二人の内情の違いが明確でなく、二人ともが落ち着いて見えていたこともあり、話が転がらない。電話の向こうの誰かなど、話を搔きまわす人物を使って影響力のベクトルを増やすのも、展開させるためには有効だったかもしれません。

演技に関しては、身振り手振りが説明的な動きになってしまい効果が発揮されなかったのは、このシーンはこう動こう、こう話そうと思っている「俳優」がそこにいる感じがしてしまうのが原因。「演出の指示または俳優のアプローチ→登場人物の思考→動きたい理由もしくは動けない理由→行動」への落とし込みがなされていないように感じました。指をさす、腕を組むなどの動作一つでもそれは必要です。意図していない違和感をいかに排除していくかが課題かと思います。

 

②愛知県立芸術大学演劇部 「劇団ムヂンエキ」『眼をつぶってごらん』

音楽的、かつ詩的な世界感。流れるBGM、舞台装置、演技の統一されており、それにより世界観が巧く表現されていたのが印象的。

紡がれる言葉が美しく、張りを削いだ語り口でもつい耳をそばだてて聞かせる力を感じました。

「静けさの下に流れる強い心情」がこの作品の核になっていて、だからこそだが、自分の身に降りかかる障害で精一杯で友人の抱える障害に気づけなかったことが子供時代ならではのトラウマになって現代のラストシーンにリンクする「友人が盲目だったことに気づくシーン」は、その衝撃をもう少し強く感じたかった。それは多くを変えるのではなく、「演じ方の演出」で随分変化すると思います。言葉ではなく身体が語るシーンで、もう少し丁寧に時間を使う程度のことかもしれません。そういった細かい「惜しいな」という部分を煮詰めていくと、さらに魅力的な作品になると思いました。

「静かながら脈々と根底に流れる思い」をいかに表現するかを、探求していってほしいです。

 

③はねるつみき 『昨日を0とした場合の明後日』

総合力として、参加団体の中で頭ひとつ抜きん出ている印象でした。同時に、作家性の強い作品。台詞の出し方、立ち方にもしっかり演出意図が見えたということは、創り手の中にしっかりとしたコンセプトがあり、それに応える演技力を備えた俳優が揃っていたということ。

作演出家の好みの、とある団体のカラーが透けて見えてましたが、それをしっかり自分たち独自のものに昇華していました。お見事です。

もう一つ素晴らしかったのが、創り手の目線と観客の目線の重ね方。

執筆する際、作品の主題や作家の思いを登場人物に吐露させてしまいがちですが、本作では、作家が感じている不安や憤り、疑問や不信感を一切言葉にせず、世論によって一瞬で

信念(とも呼べない主張)が変わり堂々と話す友人を黙ってじっと見つめる主人公の心情が、まさに創り手の思いであって、その違和感を観客も一緒に感じるつくりになっていたように思う。さらっと表現され紡がれていく現代社会の気味悪さ。そしてそれは、世が変わっても決して変わることがないんだろうという、主人公の絶望のような情感にリンクして、怖さすら感じました。それをとてもドライに描いているのが印象的で効果的。

そして、予選から決勝の最後の1日で、まだまだ作品を詰めてきた本気度が伝わってきました。

これを立ち上げたのが全員、去年まで高校生〜つまりは18、19歳っていうのに一番驚愕。貫いていってほしいです。

 

④名古屋芸術大学劇団超熟アトミックス 『I;dea』(アイデア)

とある劇作家の悩みを物語の主軸にした二人芝居。

創作に向き合う時の「客観視」を意識してほしいと感じました。自分の体験や経験を基にすること・演出家が出演することの難しさが大きく影響していたと思います。

作家が感じたことをそのままの形で物語にしてさらにそれを主人公に語らせるという作りは、かなり難しいです。例えば他の事象に置き換えてみる〜作家の悩みを、会社で企画を任された中堅社員に設定してみるなど、一度客観的な立場においてみると、糸口が見つかることもあるかもしれませんが、これもかなり研究が必要です。

二人しか出演していない会話劇で、その一人が演出家なのもなかなか大変です。

それが影響してか、二人のキャラクター演じ分けもうまくいっていなかった気がします。

主に会話で見せていく二人芝居ということは、その人物同士が何にどうやって影響を受け・与え、何をきっかけに変化・展開していくのか、観客の目は二人の俳優のやりとりに集中します。が、その調整を客観的に見る位置にいるべき演出家が、内側にいる。会話劇は、例えば映像を撮って確認してみてもなかなかその空気感は読み取れません。

とても難しいところに挑戦する意気込みがあったかもしれませんが、それを充分操るまでには至っていなかった印象です。今度はまず、俳優と作家・演出家を分けて、また挑戦してほしい。そうすることで、たくさんのことが見つかる気がします。

 

◎Cブロック

 

①もぐもぐ熱帯魚 『ちぇんじ!』

ハイスピードに進んでいくパワー全開の成長物語。「変わること」をテーマに、さまざまな思いがぶつかり合いながら進んでいくという主軸がわかりやすく提示されていて、観客が作品に乗りやすくなっている。

が、早い展開で会話を進めるためには、俳優が常にそのスピードに乗れていないと観客も話を追うのが難しくなる。それは間を外さないようにすることではなく、相手の言葉や挙動の何に影響を受けて、何を思って、それをどう発語するかを決め、実際に言葉にする。これを、俳優でなく「登場人物」が常にしていることが鍵で、高速で成立させるのは難しいが、成立しているものはどれだけ早くても見ている側は受け取れる。俳優が台詞を「噛む」時は、脳が会話に追いついていない時が多いようにも思う。

また、稽古を重ねているうちに考えなくても台詞が順番に出てくるようになると、受け取る側も知っているワードが飛んでくるのでついついしっかり受け取らずに発語してしまう。しかし観客の多くは初見なわけで、そこを忘れてしまうと、伝えるべきことが伝わらない。逆に全部を伝えようとすると過多になってこれまた伝わらない。本作に関しては、このバランスを加味すると、さらに魅力的になると思いました。

 

②劇団モーメント 『グッドラック』

自分の可能性を諦めてしまった主人公の成長物語。「頑張れ」という言葉にプレッシャーや劣等感を感じ、それが頭痛や耳鳴りになって表れる。本気でやっても報われない。その大筋や心に抱える悩み、つまりこれから描くことを最初に言葉で説明してしまっていて、もったいない気がしました。

主人公と友人ともう一人、多役をこなす俳優が登場するのだがこの多役俳優の存在感が際立っていた。作品の進行が冒頭から言葉で説明されることが多いため、メイン二人の身体を見ていなくてもよくなってしまうのも相乗効果になり、多役俳優の演技の魅力と、本筋に関係のないネタの方がどうしても際立ってしまっていました。

裏を返せば、ネタとこの俳優には観客を惹きつける魅力があったということ。

自由な、というと語弊がありますが、その場の流れや空気を感じて、どちらにも動けるニュートラルな状態でいる=俳優としてではなく登場人物としてその場に存在できているかどうかが、この差を生んだりします。こういった俳優は、団体の財産の一つだと思います。

 

③アルティメットドラゴンナイフ 『トリトメガァル』

正直、一番判断に困った作品でした。

というのは、「創り手の意図したパフォーマンスになっていたのかどうか」が掴みづらかったから。もし意図した通りなのであれば、観客投票で勝敗が決まる場にこれを持ってきたことも含めて、あっぱれな作品でした。「理解してほしい」という意思を感じなかったからです。

とにかく常軌を逸する作品で、既視感のないものだったことが魅力。終始流れる映像、実は主人公から見た風景だったそうなのですが、会話している間も相手がその目線に入ることなく景色が流れ、時おり話の内容とリンクする映像が差し込まれるため、「流れている映像の意味」を考えている間に会話が展開されており、声量や滑舌の状態の影響もあって台詞の半分以上が聞き取れなく、その状態で20分という時間を作品に集中するのはなかなか困難でした。が、それが意図したところに近いのであれば、成功と言えるのかと。また、照射器具を背負った俳優が出てきた時の舞台の絵面が好い意味で衝撃的でした。オリジナルの作風をどんどん磨いていってほしいです。

同時に、演技に関する手法や技術も、自身の作品をさらに魅力的に観せるものを研究・開発していってほしいし、それができるであろう団体だと思います。

 

④幻灯劇場『56db』

エキシビジョン参加でなければ個人的には推薦枠で推していた作品です。

圧倒的な身体能力、独自性、独創性、表現力を持ったクリエイター集団が「本気で挑んだ」レクリエーション的ステージパフォーマンス、という印象。

月の住人から地球人への動画メッセージから始まり、彼らの生活を脅かす「月外生命体」との争いの一幕を、ゲームライブで展開していく。これが観客の心を終始掴んで離さなかったのは、「ゲームのルールがシンプルでわかりやすい=ストーリー構成」、「ゲームクリアの難易度が高い=身体能力と頭脳力」「笑いを堪えさせることで爆発的な笑いを起こす=心理的アプローチ」を計算し尽くし、それを見事に利用していたから、かと。

それだけではなく、俳優の演技力も見事。

常にゲームの進行と観客の空気を掴み、客観的に言葉や居住まいを選んでいく男性陣のアドリブ力、ラストシーン、ただ前に歩いてくるだけのシーンで観客に緊張感や脅威を与える女優陣の身体演技も素晴らしく、笑って楽しんでいた観客を一気にストーリーの中に引き戻すには、彼女たちの演技力が不可欠でした。

ゲームのみだとステージによってかなり出来不出来分かれますが、彼ら彼女らの演技力が根底の物語に引き戻し、満足感を得られる。見事な挑戦とパフォーマンス。「他の作品も観たくなる」というのが、何より彼らの力量と本気度の証だと思いました。


劇団あおきりみかん

鹿目由紀

 

◎Aブロック

①愛知学院大学演劇部"鯱"「ダスイッヒ」

「気持ち」を四つに分けた意味が曖昧に感じました。分けた気持ちたちと主人公の関わりにより主人公に変化が起こるはずが(事実最後は起こるように構成されていたと思います)、これによりなにがもたらされたのかが分かりませんでした。つまり「気持ち」たちの影響が薄かったように思います。「色分けする」ことと「実は喜怒哀楽に分けたわけではない」ということは両立せず、逆に物語の構造を分かりにくくしている気がしました。「わたしはあなた」という台詞は黒い男が現れた時点で言うだろうなと思っていましたが、やはり最後に発せられたので、意外性がなくもったいなかったです。別の言葉であれば良かったと思いました。キャラクターの中には面白く活かせそうな方もいたのに、活かしきれず残念でした。

 

②南山大学演劇部「HI-SECO」企画「エンドレス水族館」

途中まで面白く拝見しました。「わたしの旦那は最近冷たい」という台詞が二度出てくること、その台詞の意味合いの入り方の違いが巧みで、旦那が横たわっている場面までは「おー」と感心しながら見ていました。女性の主人公も旦那さんの演技も魅力的でした。魚くんたちも。旦那が死んだという事実を受け入れられず水族館から抜け出せない主人公の様子も非常によく分かりました。タイトルは「えんがわ」というのもありだと思っていました。ただこの作品に【感心】はしましたが、【感動】までは至りませんでした。それは後半の状況説明が長すぎることに起因していると思います。後半に行くにつれ、状況や感情を表す台詞が多く、蛇足に感じられました。もう少し客の理解を信じ、大胆に台詞を削る必要がありました。電車と水族館のリンクが上手くなされているように思えたらさらに良かったです。

 

③魚眼ベニショウガ「かけがえのないインスタントな私」

途中までは面白く拝見しました。ただ父親とのエピソードや小さい頃のエピソードが一般的な例を抜けず、もっとごくごく個人的なエピソードである方が良かったなぁと思います。個人的な方が主人公の状況がより伝わりやすく、話の軸として成立しやすいです。演じ分けが上手に行われていて、笑えるところもあり面白かったです。マツザキとか。葬式の司会の声が達者で笑いました。

 

④公募出場枠「シックソサエティ」

それぞれの視点、台詞にもっとえぐられたいと思いつつ、そこまでえぐられるような感覚が無かったのが残念です。映像のつかいかたなどは、ハンチュウユウエイさんを彷彿とされるところもありましたが、効果的には働いていたと思います。

 

◎Bブロック

①ギガドラ(豊橋技術科学大学)「コント1/3時間」

爆弾を中心に展開する話にしては爆弾に対する危機感が二人の掛け合いからは感じられず、何に重きを置かれているのかが曖昧になってしまっていました。またカウントダウンの時間設定が長くてダレてしまったように思います。そのせいで、タイマーを使うのは面白かったのですが活かし切れていませんでした。カウントダウンするならやはり0まで行ける方が良かったかと。俳優同士の台詞がきちんと積みあがっていなかったので、テンポが冗長に感じました。ただ途中の女の子の声はいかにも萌えた感じの声でそのアクセントは効果的でした。

 

②愛知県立芸術大学演劇部「劇団ムジンエキ」

【雰囲気】はとても良かったです。五感に訴えかける芝居というのが舞台的だと思いました。うつる写真にもセンスを感じました。ただ耳が聞こえなくなっていくことと、彼女の好きな音の話がもっとリンクしていけば良かったかなぁと思います。演出の領域でもっと関連づけることが出来ると思います。また同じ人物を二人で演じていることの利点がもっとあるといいと思いました。【きこえるときのわたし】と【きこえなくなったわたし】の違いであるとか…。瓶のつかい方、雨のつかい方が効果的でした。

 

③はねるつみき「昨日を0とした場合の明後日」

言葉の選び方がとても面白かったというか、新しかったです。作者の世の中に対する「疑い」があらゆる場面から出ていて、そのものの見方に好感を持ちました。歌を歌い出すところの(「ひとから」から「ヒトカラ」)唐突ぶりのすばらしさ、乾いた男と女の会話から感じられる無常観。構成をもっといじれば(というのも途中の時間構成をあのようにした意味が完全に活かせてなかったので)、時間が経つにつれ、どんどん積み上がる無常観が出せるのではないかと思いました。

 

④名古屋芸術大学劇団超熟アトミックス「I;dea(アイデア)」

あの出会い方でいきなり理解され変化していくのは難しいし、作家の苦悩がほとんど伝わらなかったです。変化を迎えるきっかけになった女の子との会話が脆弱。これは苦悩する作家が変化を迎える「特別な日」の話であるのだから、だとするなら変化のきっかけはもっと跳ねるものでなければならないかと。

 

◎Cブロック

①もぐもぐ熱帯魚「ちぇんじ!」

芯がしっかりしていました。「変わる」と「変わらない」についての考察は、笑えるなかに深いところがあり楽しめました。俳優の台詞の発語が、早く言うことに、また身体そのものに追いついていないところがあり、ただ早く言うだけでセリフの細かいニュアンスがとばされているようなやり取りがあり、もったいなかったです。その点については決勝ステージの方が良かったように感じました。また先輩役のエピソードが20分の中で生かしきれておらず、短時間でももう少し深く絡められたらとは感じました。後半のセリフが説明の繰り返しになってしまったのが残念でしたし、そこまで言わなくても伝わるものかなぁと思いました。

 

②劇団モーメント「グッドラック」

内容がストレートすぎて恥ずかしい気持ちになりそうなところを、黒田役の方が、達者な演技で絶妙に汚してくれるおかげで、最後まで飽きずに観ることが出来ました。女性のラインはよく分かったのですが、男性の悩みがもう少し複雑な悩みである方が良かったように思います。複雑というかもっと個人的なものというか。世間一般的な悩みすぎて逆に共感性が持てない気がしました。

 

③アルティメットドラゴンライフ「トリトメガァル」

ホンが面白いと思いました(読んではいないですが)。ですが、なにぶん台詞がなにを言ってるのか半分以上分からなかったです。とりとめのない(ちぐはぐな)女性二人の様子がとても面白かったゆえ、なにを言っているのか分かったらもっと良かったなぁと思いました。映像のつかい方は面白かったがもっとリンクさせることが出来たかなぁと。

 

④幻灯劇場「56db」

とても面白かったです。カグヤの設定を最初のあの短い時間でスマートに伝えていたのが達者でした。また俳優の身体、照明と音響、衣装、映像などの技術、観客参加型などのすべてが絶妙に絡み合い、壮大なバカを全精力を傾けてやっている所が面白く、特に1ステージ目は自分も【参加】して楽しんでしまいました。最後、こちらに向かってくるカグヤの気持ち悪さも含め、審査対象であれば、文句なくこれが1位だったように思っています。

 

◎総評

決勝に出た東海の三作品、どれも面白く観ました。が、20分という時間にどれだけ深く面白く作れるか、ということに関しては、もったいないところを感じました。審査対象枠ではなかったですが、幻灯劇場が頭ひとつ、ふたつ抜けているという印象を受けました。

全体の話ですが、20分のものをつくるというのはなかなかに難しく、上演時間が短いからお手軽のようでいて、実は長編につかう労力を短時間に結集するという作業に等しいものだと、常々思っています 。20分という時間は、なるべく短時間で【役の魅力】【筋の魅力】【ケレン味】などを瞬時に叩き込む時間で、また作品内で扱うひとつの【ネタ】 ないし【話題】が求心力の強いものであればあるほど、魅力的にうつる時間だと認識しています。このような勝ち負けを競うものであるとなおさらその様相は強くなってきます。ですから、求心力の強いネタを高い技術力でやり遂げた幻灯が、目に飛び込んでくる結果になるのは、当然のように感じています。もちろん、求心力をどう持たせるかの方法にはいろいろなやりかたがありますが、なにぶん短時間とはいえ、侮るなかれというところが大きな感想です。それぞれの作品にいいところはありましたが、もっと繊細に、かつ批評性を持ち、よりよい芝居をつくっていっていただけるといいなぁと思っています。こういう演劇祭は、本当に素晴らしいことで、やればやるほどすべての能力が上がっていくものです 。わたしが参加していた劇王も10回続いたことで高まっていきました。これからも続いていくことを切に願います。